今回は寺院で使用されている屋外用大型香炉のフタを3Dプリントで製作するプロジェクトです。
写真の通り、香炉は2種類あり、直径50cm超えの大型香炉と、30cm程度の中型香炉のフタをそれぞれ作ります。
香炉のフタ製作の経緯は、屋外の香炉であるため、雨や雪が入り中の灰がすぐにダメになってしまうため、天候の悪い日のみ、フタをしておきたいという、施設管理者からのご相談でした。
こちらの寺院は弊社から直線距離でも1,000km、陸路で約1,500km程離れた場所にあるため、採寸漏れがないようにしっかりと採寸し、細かな部分などスケッチして、問題なく立体データ作成及びデザインができるように配慮いたしました。
早速持ち帰った採寸データをもとに香炉フタをデザインしてみました。こちらは大型香炉のフタで、大型香炉には4本の支柱が立っているため、支柱を交わすための逃し構造を設けました。支柱を交わしながらフタをはめ込むので、多少の慣れは必要になるかと思います。上に屋根があるため、屋根との干渉は問題ないことを現場で確認し、一体構造をとることにしました。もしクリアランスが無ければ2分割構造を採用する予定でした。
熱溶解積層3DプリンターのXY造形範囲の関係で、大きく分けて11個のパーツで構成し、パーツとパーツはステンレスのボルトナットワッシャーで固定する構造となっております。
こちらは中型香炉のフタのデザインです。大型と同じくオーバーハングのツバを出すことによって、香炉本体に雨などの水滴が侵入することを防ぎます。宝珠と法輪の装飾を入れております。
3Dプリント時に必要なラフトを表示しているため、余計なものが写り込んでおりますが、基本的には大型フタと同じ形状で、こちらは香炉本体に支柱が接続されていないため、シンプルな形状となっております。大きく分けて5つのパーツで構成されております。
今回はほとんどのパーツを熱溶解積層方式で3Dプリント造形します。造形範囲にギリギリ入る大きさでパーツに分割し、適宜サポートとラフトを入れます。造形で使用される樹脂の半分はサポートで消費されます。樹脂はいつも通りのABS樹脂、耐候性に関しては塗装を施すため、気にせずABS樹脂で造形を行います。
中型香炉用フタの3Dプリント直後の写真です。重さは200~230gの範囲です。サポートを除去すれば半分程度の重さになります。表面の精度的には熱溶解積層方式独特の等高線ですが、後でパテ埋めしてスムージングを施します。
中型香炉用のフタは5個のパーツで構成されております。裏側からボルト・ナット・ワッシャーで固定します。
オーバーハングのツバ部分はサポート除去後の荒れた表面になってしまうため、パテで埋めていきます。ABS樹脂の反りや変形もあるため、歪みや隙間を埋める役目もあります。
中型香炉用のフタは、法輪を一体化して3Dプリントしましたが、パテ埋めの作業と塗装作業がやりにくいことに気づき、大型香炉用のフタは法輪を別体にして塗装後に後から、接着することにしました。
ツバ部分のパテ盛りは一度では仕上がらないため何度もパテに違う色を着色して、盛っては削りの作業を何度も繰り返します。
削る際に水平に削るのが難しく、職人技で水平を確認しながら均等に研磨していきます。3Dプリントで製作といえば、こういった手作業を想像する人は少ないかと思いますが、その作業のほとんどは手作業になります。
パテ盛りが完了して、サーフェイサーを塗装した後の写真です。一般的には等高線でガタガタ表面の熱溶解積層方式の3Dプリントですが、パテ埋めを施し、サフで仕上げるとツルツルの表面まで仕上げることができます。ただし手間暇がかかります。
こちらは大型香炉用フタのパーツになります。全体で約54cmの大きなフタになるため、1つ1つのパーツが非常に大きく11点のパーツに別れました。内部はサポートで埋まっており、50%程度の重量を占めております。中心部分の部品(写真左)は持った感じズッシリ感じる重量感です。
パーツ内部のサポートを除去してボルトナットワッシャーで接続します。ABS樹脂の収縮を加味して、あえて干渉側に少しモデルを大きくしたのですが、大きくしすぎて組み立てが若干困難になりましたが、なんとか組み上がりました。
中型香炉フタ同様ツバ部分(香炉本体との当たり面)にパテを盛ります。パテを大量に消費するため今回はキロ単位でパテを仕入れて、塗料で色を変えて、水平面を出すべく何度も盛っては削りを繰り返しました。
表面は見える部分ですので、等高線のガタガタ面にしっかりとパテを埋めて滑らかになるように研磨します。切削性の良いパテをしようしているため、面出しは非常にやりやすかったです。
また、法輪を別パーツにしたおかげで、干渉物がなく効率的に面出しができました。
中型香炉での改善点を改善し、大型香炉フタでは法輪を別パーツとしました。一体型時には熱溶解積層方式だったため、法輪外観はそれなりの表面精度しか出ませんでしたが、別パーツにすることにより、光造形で3Dプリントすることができますので、表面精度が良く、更に個別に塗装ができるため、作業性も良く、完成度がより高くなりました。
一方、中型香炉フタは、法輪を一体化してしまったため、面倒なマスキング作業が必要になり、非常に非効率な作業になってしまいました。次回香炉フタを製作するときは必ず表面上の装飾は別パーツで製作することにします。
完成した大型香炉用フタです。屋外で使用しますので、クリア塗装は自動車塗装等で使用する大型のスプレーガンを用いて厚く塗装しました。中にステンレスのボルトナットワッシャーが入っているため、それなりに重量がありますが、仕上がりは良好です。
ちなみに中型香炉用フタの完成写真は撮り忘れました。
現地での最終調整になります。写真を見ての通り、4本の支柱に若干干渉して入らない状態です。これは想定通りで、支柱の逃しを大きめに取れば干渉を避けることもできますが、あまり大きく逃しを取りすぎると隙間から雨などの水滴が侵入する恐れがあるため、現地に研磨道具を用いて、ギリギリの調整を施します。支柱設置ピッチが正確ではないため、前後逆向きにしても入るように調整するのに苦労しました。
フタが無事にはまりました。香炉フタの製作を機に香炉全体の塗装も施工させていたしました。
香炉フタを年間通して屋外で使用して問題がないか観察しております。夏と冬は過ごしており、これまでのところ全く問題はありません。写真は積雪時の写真と、氷点下時に霜が降りた日の写真です。横殴りの風でも雨や雪が入ることはなく、氷点下でもフタが割れることもなく普通に使用することができております。今後もフタに異常がないか経過観察を行い、必要であればメンテナンスを行っていきたいと思います。