Peopoly Phenom LのLCDディスプレー不具合との闘い

Peopoly Phenom LのLCDディスプレー不具合との闘い

今回のブログは弊社の主力光造形機であるPhenom Lの話です。早いものでPhenom Lを導入して約3年になりますが、これまで経験したこと無いトラブルに見舞われたため、世界のPhenom L及びPhenom兄弟機種ユーザーのためにトラブルシューティングブログを書きたいと思います。

2023年9月12日落雷発生

この日は朝なのに外が夜のように暗く豪雨で落雷が頻発。通常雷は光ってからある程度の時間差があってから轟音が鳴り響くものですが、光と同時に轟音という近距離な落雷がありました。
ちょうどPhenom Lでとある緊急案件の3Dプリントを行っておりまして、造形中ですので雷に対しては何もできずという感じで、造形自体になんの問題もなく数時間後3Dプリントは無事に完了しました。外観不良等は何もなし。

造形中に突然のブラックアウト

Phenom Lは上記の落雷3Dプリント後も、2回3Dプリント(合計28時間)を行いましたが、造形品に外観不良なく正常に動作しておりました。
9月2日にPhenom LのLCDディスプレーを交換、9月17日から重要案件の3Dプリントを控えていたため、前日の9月16日にはFEPフィルムも交換して、Phenom Lを万全な状態にしていました。
迎えた9月17日、夜中日付が変わると同時に3Dプリント開始。その後朝を迎えて確認した時Phenom Lはまだ正常に3Dプリントを行っていました。しかし昼頃に確認したところメイン電源が落ち造形がストップしている状態に。メイン電源が落ちているため、操作パネルも不点灯で、完全にシャットダウン状態でした。しかし隣のPhenomは正常に3Dプリントを継続しており、何の問題もありませんでした。

スイッチの故障

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早速Phenom Lの電源が落ちた原因を探るべく、メイン電源スイッチをON/OFFを試してみると、スイッチ内部のLEDが不安定に弱々しく光るのを確認。電源が入ったかと思えばすぐに切れてしまう状況でした。電源スイッチに問題があると思い、Phenom Lの電源部分を取り外し内部のヒューズを確認してみると、ヒューズは正常。接続されている配線もチェックしてみましたが異常がなかったため、スイッチ内部が故障していると判断しました。同じスイッチがネット上で販売されていたため、すぐに取り寄せ。スイッチのみを交換すればまた正常に電源が入ると予測しました。

スイッチ交換

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取り外したスイッチアセンブリ。中心にヒューズが1本と予備で1本埋め込まれています。PhenomはACアダプターが外にあるのですが、Phenom Lの場合ACアダプターが内部にあるため、電源ケーブルを直接機械に接続する構造になっています。

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新しく届いたスイッチアセンブリ。ヒューズも付属で良心的です。Phenom Lから出ている配線はそのままにして、スイッチ裏側の配線のみ行いました。

北海道は物が届くのが遅いため、発注3日後の9月20日にスイッチが到着。スイッチは、アセンブリの状態で販売されており、スイッチ+ヒューズ+コネクターで1セットです。元々接続されている配線を抜いて、新しいアセンブリに差し替えるだけなので、作業としてはとても簡単です。動作チェックでも正常に電源が入るようになりました。

スイッチ交換した後の造形は全て外観に造形不良

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スイッチ交換し、9月20日のうちに気を取り直して再度重要案件の3Dプリントを開始、翌21日に3Dプリントが完了し、ビルドプレートから造形品を外す際に、プリント品の表面に異常な縦縞模様が発生していることを発見。表面にLCD解像度固有の模様が入ることは多々ありますが、それとは比較にならないくらい深い縦縞の模様というよりは深い傷レベルの外観不良があり、形状が単純であれば、パテ盛り修正可能ですが、パテを盛った後に研磨困難な形状ということもあり、造形物を廃棄して新たに3Dプリントを行うことにしました。
※スイッチ交換前、途中で造形がストップしてしまった時の造形品にはこの外観不良はありませんでした。

サポートのデザインを変更して造形再挑戦

3Dプリントを再度行いますが、そのままの造形データでは同じトラブルが起きるだけですので、造形データそのものを作り直します。しかし元々の造形データは4回3Dプリントが成功している信頼性高いデータですので、トラブル解決後を見据えて保存しておきます。
ではデータの何を変更するかを考えたときに、外観不良の縞模様がちょうど内側のサポートの柱と同周期で発生していることに気が付いたため、サポートが何らかの関係をもっていると推察し、サポートの配置や形状を見直して新たな3Dデータおよび造形データを作成しました。ちなみに弊社では案件によってはスライサーでサポートを付けず、3D-CAD側でサポートをデザインする場合もあります。今回は正確にサポートをデザインする必要がある案件のため3D-CADでサポートも一緒にモデリングしております。

造形不良はおさまらず

新たなる造形データで3Dプリントに挑戦してみたものの、結局外観不良トラブルは解決しませんでした。サポートの形状を変えましたが、変更した形状パターンで外観不良が発生。これまでこんな外観不良は経験したことがなく、全く原因がわからない状況です。外観不良は外側に発生するため、ドライランをかけてLCDを観察し、造形データの外側淵に外観不良と思われる形状が出てくるか観察しましたが、目視で見る限りでは正常。

スイッチアセンブリのスイッチのみ交換してスイッチ元々のスイッチを取り付けて実験

スイッチ交換前までは、外観不良が起きていなかったため、試しに元々のスイッチに付け替えて実験してみることに。しかしスイッチ本体は壊れているため、スイッチ部分のみ新品、ヒューズなど他の部品は元々の部品でアセンブリを組みなおして、Phenom Lに取り付けました。

造形不良解決せず

結局のところ上記スイッチアセンブリに交換しても、外観不良は直りませんでした。3Dプリントする物が大きいため、実験1回で消費するレジンの費用もかさみます。特に重要案件ではノーマルレジンよりも高価なABSライクレジンを使用しているため、3Dプリントの失敗は回を重ねるごとに負担が大きくなっていきます。

同月に交換したばかりのLCDを疑う

心のどこかではもしかしたらLCDディスプレーを交換したら直るのではないかという気持ちはありましたが、同じ月の頭に交換したばかりのLCDが壊れるはずがないという先入観がありました。これまでPhenom LのLCDディスプレイは10回程度は交換してきましたが、頻繁に造形を行っても1ヶ月経たず2週間程度で壊れてしまうのは前代未聞です。メーカー側では600時間の耐久性はあるようですが、弊社では頻繁に使用して半年~1年は普通に使用できていました。しかもLCDディスプレーは交換部品の中でも高額部品ですので、頻繁に取り換えるものではありません。しかし今回の外観不良トラブルの原因がわからない以上は、藁にもすがる思いでLCDディスプレー交換を試してみるしかないと考えました。

日本の代理店からLCDを取り寄せ

LCDディスプレーを取り寄せる方法は2つあります。⓵国内の販売代理店から購入、こちらは注文後翌日発送中1日で北海道到着が通常です。しかし日が悪いことに23日土曜日の注文になってしまったので、25日月曜日発送、27日水曜日到着という一番時間がかかる注文となってしまいました。ちなみにもう一つ⓶海外から取り寄せる方法、PEPOLYの公式サイトから直接オーダーして海外から直接送ってもらう方法もありますが、送料が25ドル+対応地域外料金30ドル、送料が合計55ドルかかってしまうため、あまり使いたいとは思いません。どうしても国内に在庫が無い時、海外にしか売っていないものを取り寄せるときにのみ仕方がなく利用します。加えて海外からの発送の場合到着まで約2週間程度の時間がかかります。

新品のLCDを取り付けてみると約40%死亡状態

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待ちに待った代替部品のLCDディスプレーが届きました。国内代理店のポリシーで到着後1週間経過してしまうと初期不良も対応してもらえないため、到着したその日にLCDを交換。LCD交換の際に必ずメーカー純正のガーファーズテープでLCDの淵から紫外線が漏れないように、なおかつ造形範囲を狭めないように細心の注意をはらいながら、ガーファーズテープを貼り付けます。貼り付け途中にキャリブレーションコマンドで、紫外線発光&LCDディスプレーテストパターンを確認するのですが、なんとLCDディスプレーの40%が正常に動作せず死亡状態なのです。速攻で写真を撮影し国内代理店に連絡し症状を説明、代理店が海外本社に問い合わせをしてくれまして、本社が初期不良を認めてくれたので新品代替品と交換してくれることになりました。それは良かったのですが、問題は時間です。現時点で当初の予定より10日遅れ、そしてさらに2週間程度の時間がかかることが予測され、もはやクライアント様に事情を説明して納期を延ばしてもらう他ありませんでした。小さいものであればPhenomで3Dプリント可能ですが、大きさ的にPhenom Lでなければ入らない大きさであったため、その作戦も使えない状況でした。加えて海外から弊社直接ではなく一度代理店を経由してからでないと、納品できないとのことで、さらなる時間のロスとなってしまいました。

そもそも新品のLCDディスプレーがなぜ壊れていたのか?

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新品LCDが壊れていた原因は、一目見てわかりました。LCDディスプレーはガラスのディスプレー本体とそれにつながる基板で構成されており、これまで購入してきたLCDディスプレーは基板部分がガーファーズテープで被覆されて絶縁されておりました。しかし今回到着したLCDディスプレーの基板部分には、驚くべきことにアルミテープが貼られていたのです。基板全体を覆うように被覆されているのです。基板関係に詳しいわけではないのですが、そんな弊社でもわかるくらいありえないことです。基板全体に導体であるアルミを貼り付けたら、色々な場所でショートが起きます。もしくはショートのリスクが高いです。

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実は被覆材はガーファーズテープやアルミテープのみならず、別素材の黒いテープの時もあり、酷いときはテープが何も巻かれず基板むき出しの時もありました。被覆の仕様のみならず、JW33コネクターの位置や方向の仕様も毎度毎度異なっていて、一体どんな理由でこんなに品質にばらつきが出てしまうのか、非常に謎です。とにかくPhenomのLCDディスプレーの品質管理はよろしくないので購入の際はすぐに初期不良チェックを行わなければなりません。それ故に社内に在庫できないのです。(わざわざ正常なLCDを外してチェックするのは時間的に現実的ではないため)

最初の不具合が起きて約1か月でやっと壊れていないLCDを装着

最初のトラブル発生から約1ヶ月ようやく本社から代替品ディスプレーが届き、初期不良チェックとして行うキャリブレーションテストをパス。その後一番初期の造形データで3Dプリントを行ってみると、外観不良もなく綺麗な3Dプリントができるようになりました。

今回のトラブルの原因は?

今回のトラブルは1つのことではなく、複合的なトラブルが重なって1ヶ月とうい長い時間を要しましたが、結局のところ最初の原因は何だったのか?と考えてみると、雷は関係あったのかは微妙ですが、もし仮に雷が原因だったとすれば、その直後にスイッチが壊れたり、造形トラブルが起きるはずですが、数日&数回の3Dプリントが成功しているので、雷は関係ないかもしれません。スイッチが壊れた原因は経年劣化の可能性もあります。ただスイッチの検査を行うために何度かON/OFFを繰り返した際に、スイッチの入り方が微妙(スパークするような感じ)だったので、ノイズがLCD基板に伝わって、LCDディスプレーの画像表現(淵の部分)に何らかの問題が発生し外観不良が起きるようになったのではないかと、推察しております。
それに加えて、交換で取り寄せた国内代理店在庫が不良品であったこと。その原因は設計側のミスなのか、製造作業員の怠慢なのかは不明ですが、今後はPeopoly社に初期不良のない品質管理を努めてほしいと願わんばかりです。