鏡面反射部品・光沢部品は3Dスキャンの敵
今回は車両ボディー3Dスキャンの話題です。
弊社ではこれまで数多くの車両3Dスキャンを行ってきましたが、車ボディーの3Dスキャン時の課題はボディー表面の光沢や鏡面反射と感じる人は多いのではないでしょうか?
ボディー表面の光沢や鏡面反射は、赤外線を使った3Dスキャナやフォトグラメトリによる3Dスキャン時に、正常な形状を撮影することを阻害します。特に窓などのガラスは赤外線レーザーも透過しますし、フォトグラメトリを使っても正確な形状をスキャンすることはほぼ不可能です。その理由は説明すると長くなりますので割愛させていただきますが、今回は表面の光沢や鏡面反射を回避する方法として、代表的な2つの方法を比較しレビューを行いたいと思います。
比較する商品紹介


まずは3Dスキャンのために作られた自然昇華型3Dスキャンスプレー「エイサブ」ドイツ製です。
エイサブはいくつか種類があり、自然昇華型ではなく、自分で拭き取るタイプ、そして昇華時間6時間タイプと24時間タイプのものがあります。
1本約5,000円弱くらいの高価なスプレーですが、今回は24時間タイプのスプレーを12本用意しました。

ホームセンターでも普通に売られている3Mのマスキングテープ
貼る箇所に応じて20mm30mm40mm50mm60mm100mmの6種類を用意。
自然昇華型3Dスキャンスプレーの吹付け


今回の3Dスキャン対象車両は三菱自動車のデリカD5になります。ミニバンですので他の車種と比較すると表面積が大きく、3Dスキャン範囲はかなり広めになります。
パーツごとに吹付けを行っていきます。吹き付けた瞬間は透明なため、吹付け具合の確認が難しく、どうしても吹付けにムラが生じます。しかし広い面を3Dスキャンする場合は特徴点がないと3Dスキャナは形状を把握できないため、ムラを逆手に取ってあえてムラを出しつつスプレーを吹き付けました。

フロントバンパーのメッシュグリルなど、細かな形状がある部分に関してはスプレーは非常に有効です。
今回の案件ではメッシュ形状を必要としなかったため、マスキングで全て埋めてもOKでした。
もし仮にマスキングテープでこの細かなメッシュ形状をマスキングすると考えただけで地獄です。

16時間前後経過の様子がこちらの写真です。完全に昇華しきってはいませんが、確実にスプレー成分が自然消滅していることがわかります。自然昇華が待てない場合は、通常の洗車作業で洗い落とすことも可能です。
自然昇華型3Dスキャンスプレーの3Dスキャン結果




今回は赤外線タイプの3Dスキャナとフォトグラメトリによる3Dスキャンの2種類の方法で行いました。
表面はかなり凸凹しており、生データではかなり穴の空いた状態でしたので、この状態でもかなり修正を加えて表面をきれいにした状態です。納品レベルには程遠い感じです。
車両へのマスキングテープ貼り付けの様子






ミニバン1台に幅50mmのマスキングテープを貼っていくのは大人が複数人いても非常に大変な作業でした。マスキングテープを車両に全て貼るだけでも2日を要しました。マスキングテープは幅が広いと曲面追従性が悪く、細いと曲面追従性は良いのですが、貼る回数が増えるので、バランスを見ながら貼り付けていきます。
マスキングテープですので、赤外線3Dスキャナでもフォトグラメトリでもしっかり形状を捉えることができます。今回は特徴点を増やすために、あえてボディーに球体状の突起をランダム貼り付けて、3Dスキャンではおなじみのターゲットマーカーも貼り付けました。
今回はタイヤホイールはスキャン対象外であったのと、光輝ホイールが3Dスキャンの妨げになるため段ボールで隠しています。
マスキングテープ貼り付け3Dスキャンの結果
ご覧の通りきれいな曲面、滑らかな面で構成されたスキャンデータが完成しました。
今回はフロントバンパーは単体でのスキャン依頼でしたので、単体3Dスキャンを行いました。故に全体3Dスキャンの際にフロント部分は撮影を行っておりませんでした。
3Dスキャナのメーカーサイトでは

今回使用した3Dスキャナーのメーカーサイトでは車の3Dスキャンも簡単に行えます的な動画が流れていますが、実際は簡単ではありません。
車両の色や、艶のあるなしで条件は変化しますが、いずれにしてもスキャン後の修正作業はかなりの手間と労力が必要かと思います。
車両全体の3Dスキャンで、自然昇華型3Dスキャンスプレーが不向きであると感じた理由
①吹付け具合がわかりにくい
吹き付けた瞬間は透明で、徐々に白くなっていく感じです。
塗装のように吹き付けた瞬間から白くなってくれれば、吹付け具合がわかりやすいのですが、時間差で白くなるため、そうしても吹き付けにムラが出てしまいます。
②広い面に塗布するのには向かない
机の上に載るくらいのサイズ感の物であれば、全体を白くスプレーすることも可能かと思いますが、車ボディー表面は非常に大きいため、完全に真っ白になるまでスプレーすると、スプレーが何本あっても足りません。
例えば1名でスプレー作業を行うと非常に時間がかかります。今回使用したエイサブは24時間タイプですが、実際に使用してみると、24時間で完全に昇華するという意味であり、3Dスキャンに有効な白い表面をを保持してくれる時間は2~3時間程度です。スプレー作業と3Dスキャンは時間勝負になり、落ち着いた3Dスキャンはできないと思います。
③換気の良い場所が必要
複数人でスプレーする場合、屋外環境でなければスプレーのガスで人体への影響も気になるところです。屋外でスプレーしたとしても、車全体をスプレーしたら、屋内へ移動が困難になります。
④部分部分の3Dスキャンであれば使えそう
例えばドアパネル1枚だけ、ボンネットだけなど、パーツ単位の3Dスキャンであれば良いスキャン結果が得られそうです。
しかし、車両全体となると、パーツごとに撮影しても後からパーツを組み合わせる際にそのパーツの位置が正しいか整合性をチェックするために、どうしても車両全体のスキャンデータが必要となります。いずれにしても車両全体の3Dスキャンが必要となるため、上記の理由により、自然昇華型3Dスキャンスプレーは車両の3Dスキャンにはあまり向かないのではないかと思います。
今回は12本エイサブを用意しましたが、ミニバン1台を4~5人で同時に完璧に白くするのであれば十分な本数かと思いますが、スキャン現場は防毒マスク無しでは耐えられない劣悪な環境であることは間違いないです。
自然昇華型3Dスキャンスプレーとマスキングテープの比較
自然昇華型3Dスキャンスプレーのメリット
・複雑で細かい形状でも楽に吹き付けられる
・作業が簡単で迅速に行える
・スプレー成分は勝手に消えてくれるので後作業が楽
自然昇華型3Dスキャンスプレーのデメリット
・スプレーが高価
・換気の悪いところではできない&防毒マスク必須
・昔の油性ペンのような独特なニオイ
マスキングテープのメリット
・時間無制限で納得できるまで3Dスキャン可能
・3Dスキャナーが正確な形状を捉えやすい
・材料費の安さ
マスキングテープのデメリット
・曲面に直線マスキングテープを貼る技術
・細かい形状に貼るのは困難
・マスキングテープを貼る手間と剥がす手間、時間がかかる
車両3Dスキャンについて
今回の3Dスキャンの目的は車両に取り付けるアフターパーツ開発が目的でしたので、表面精度としては必要十分なものがスキャンできました。エアロパーツ等のアフターパーツも3Dスキャン&3DCADモデリングと3Dプリンターでマスターモデルを作ることができる時代ですので、開発スピードも昔と比較すれば早くなっているかと思います。
弊社ではこれまで車両3Dスキャン案件を複数行ってきました、車両3Dスキャンに関してご不明点等ございましたら、お気軽にお問い合わせくださいませ。